『非劇 Higeki』対談第二弾!(平倉圭×岸井大輔×篠田千明)

11月27〜29日に吉祥寺シアターにて開催の『非劇 Higeki』に向けた対談企画!
第二弾には横浜国立大学准教授の平倉圭さんと、今回補綴で参加の岸井大輔さんにお集まりいただきました。
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平倉 こないだ篠田さんが送ってきてくれたメールの中で、「モチーフ」・「フィクション」・「ファンタジー」って言葉が使われてましたよね。その言葉はリハーサル映像の中でも使われてたけど、三つの言葉はそれぞれ何を指してるんですか?リハーサルの映像を見ると、「モチーフにする」って言い方をしてたけど、モチーフに「する」ってどういうことですか? 現実にするっていうこと?

篠田 もっとこう、「ある!」みたいな感じです。言うたら、折り紙の折り目みたいなものなんですけど。たとえばライティングだと――今回の作品の照明は仮設(temporary)がテーマなんだけど――「ファンタジー」は隠されてる照明なんですよ。「フィクション」になると、劇場の中に照明があることが見えてる状態になる。で、「モチーフ」は手持ちのライトとか、一番仮設な感じ。

平倉 懐中電灯とか?

篠田 そうそう。その場に仮設される照明っていうふうに考えてる。お互いがしゃべってるとき、どのポイントを指してるのかを正確に測るために共通言語を作ってるんですよ。

岸井 僕が最初に篠田さんの作品を観たのは『Y時のはなし』の初演(『R時のはなしver.0』)なんです。それは「15minutes made」っていう15分の短編をやるイベントだったんだけど、それを観て「すげえヤツがきた」と。何がすごいと思ったかというと照明の扱いなんですよ。舞台の上に新しい照明キットが置かれていて、役者がそれを使って遊んで「これ、すげえじゃん!」とか言ってるんだけど、それがお話の中に回収されていくんですよね。正確に言うと、それがフィクションになっていくんじゃなくて、フィクションのほうが「照明ヤバい」ってレベルに降りてきた。あのときの感じは、今思うと「モチーフにする」ってことだったんだと思う。そこに照明機材が“ある”ように見えてたけど、それは“あるようにしてる”ってことだったんだよね。

篠田 なるほど、面白いですね。そのときの戯曲はよんちゃん(北川陽子)が書いてて、今回もその照明家がやるんですよ。バンコク・デビューした上田(剛)君という。

岸井 打ち合わせのとき、上田君が名言を言うんですよね。「オレ、最近漢字読めないんだよね」とか(笑)。それがそのまま台詞になる。

篠田 今回、バンコク組が結構いるんです。映像のいしい(こうた)君も最近までバンコクにいたし、舞台美術の(佐々木)文美ちゃんも半バンコク組みたいな感じで、福留麻里ちゃんは『The 5×5 Legged Stool──四つの機劇より』を作るときにバンコクに来てもらって、やし(中林舞)も『機劇』(身体編)はそれこそバンコクで作ったし、そういえばけーちゃん(齋藤惠太)も昔、バンコクに来たことがある。行きやすいっすよね、バンコク。

平倉 行ったことないんですよね。

篠田 (カクン)今度遊びに来てください。

 

――モチーフ・フィクション・ファンタジーっていうキーワードについて、もう少し理解を深めておきたいですね。

篠田 いや、今回は何かをひっくり返したいなと思ってるんですよ。「エンタメだけどハードコアだな」っていうことが、この作品を観終わると「ハードコアだけどエンタメだな」ってひっくり返るようにしたくて。そのためにモチーフ・フィクション・ファンタジーっていう言葉を使って全員と話してるって感じですね。

岸井 以前トークイベントで、いろんな事情でうまくいかなくて僕はブスッとしてたんだけど、松田正隆さんが「10秒」って将棋の秒読みを始めたんです。その瞬間に良い劇みたいになったんですよね。「10秒」って言葉だけで松田さんがひっくり返したと思って。たとえ「10秒」って言葉を思いついても、そこで言わなかったら何も生じないわけですよね。僕は「自分で口にするより、誰かに任せたほうが良いものが観れる」と思ってるから、演出家とは名乗らずに劇作家と名乗ってるんだけど、現場をひっくり返す力が演出家にはあると思う。だから、今の篠田さんの話も、「ひっくり返す」ってところに本質があると思ってるんだけど。

篠田 ひっくり返したいっていうか、『非劇』ってタイトルの作品をどうやって成功させるかって考えるとそうなってきたって感じなんですよね。『機劇』のとき、何から劇が始まるかを4つに分けて考えたんです。身体・スコア・デッサン・テキスト――4つバラバラな作品をやったとき、バラバラな共通言語で話してたから、『機劇』は全体的にハードコアになったんですよね。でも、何で私が集団制作ってスタイルを取るかっていうと、エンタメをやりたいからっていうのが一つの理由で。ハードコアなままエンタメをやるためには、それぞれがハードコアなまま機能するためのグラウンドが必要だから、「モチーフ・フィクション・ファンタジー」って3つの言葉を置いたんです。

平和とかっていうことも、やりかたで作るものだと思うんですよね。信仰・自由・個人・他者っていう四つの座標軸があるとして、平和っていうものはイメージとしてはその真ん中にあるんだけど、真ん中に置いてたらうまくいかないんですよ。

平倉 その場合、真ん中っていうのはファンタジーっていうこと?

篠田 いや、ゼロだと「何も起きない」ってことなんですけど。オノ・ヨーコが世界平和について質問されたとき、「世界平和が、将来私たちのものになるということは絶対に本当だと思います。その説明を今したいと思って時計を見たらもう寝なくてはならない時間なので、今はできません」と回答してて、「この人、平和がモチーフになってる!」「さすがオノ・ヨーコ!」と思ったんですよね。

平倉 なるほど。言葉の使い方としては腑に落ちてきたけど、観たことがないものの話を聞いてるわけですよね。それが実際、どういう作品になるんだろう?

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篠田 たとえばですね、さっきの「10秒」っていうのは松田さんすごいなと思うけど、でも、聞いた時点で我々が上演できるんですよ。

平倉 そういえば、リハーサルの映像にはエピソード・トークをする時間がありましたよね。僕はエピソードを語るのがすごく苦手なんですけど、「10秒」の話はエピソードが短い時間にまとまっていて、聞いた側に一つの真理を掴んだ気にさせるじゃないですか。そういうものって何だろう?

篠田 エピソード・トークって、目の前で起きたことをコピペしやすくするんですよね。そんなに説明しなくても、ベタにフィクションができる手法でもある。

平倉 コピペできるエピソードっていうのは、それは劇ですかね?

篠田 いや、「それ劇だ」みたいなことではないんだけど――ちょっと話は逸れるけど、演劇の上演はかなり縛りがあるんですよね。1時間半ぐらいに収めたいっていうのもあるし、お客さんの目の前でやるっていうこともある。そうすると、ありとあらゆる手段を使って観ている人の脳みそをハックする感じになるんですよね。リハーサルで言うと、エピソードに重要性があったわけではないんですけど、エピソード語りが上演の体裁を整えてくれるフィクションになる。

岸井 そこで語られるエピソードというのはお客さんの頭をハックするためのもので、何でもいいわけだよね。重要なのはエピソードの中身じゃなくて、ひっくり返す構造だと。でも、リハーサルでやったエピソードはひっくり返されても「よくある風景だ」ってなるだけなんだけど、さっき言った信仰・自由・個人・他者のようなエピソードが演劇の中でひっくり返ったとき、意味合いが変わってくると思うんですよね。

篠田 今回、映像のいしいちゃんに「篠田さん、これはSFですか」って聞かれて「SFです」って答えたんです。フィッリップ・K・ディックの『高い城の男』ってSF小説があるんだけど、あらすじを説明すると、第二次世界大戦で戦勝国になったのが日本とドイツとイタリアで、敗戦国になったのがアメリカとイギリスとソ連だって世界の話なんですよ。で、その世界で流行ってる小説がどんな内容かっていうと、「アメリカとイギリスとソ連が戦勝国で、日本とドイツとイタリアが敗戦国になった」っていう話だった、と。その小説は、ひっくり返ったら大事になるようなことをきちんとやってると思うんだけど、それは長編SFだから、読めるタイミングが決まってるんですよ。なかなか読み始める気にならないんだけど、「いつか読めるんじゃないか」と思って持ってるSF小説はいっぱいあって。何が言いたかったかというと、小説は時間が区切られてないけど、私たちがやる『非劇』は1時間半しか時間がないんですよ。これでやっと『非劇』の話に繋がった(笑)。私たちには1時間半しか時間がないってことが言いたかった。

岸井 こっち側とお客さんが両方存在していて、1時間半一緒にいる――そのことがきっと、モチーフの話と関係あるんだと思う。つまり、ファンタジーとかフィクションだけの話であれば、「お客さんと一緒にいる」ってことを利用しなくてもいいわけです。つまり、読み手の身体がそこにあるということを使う必要はないんだけれども、いずれにしても身体はそこにあるわけですよね。「90分間は一緒に過ごす」っていう状態が前提としてあったときに、フィクションとファンタジーだけでは話が済まなくなるんだと思う。

篠田 『非劇』に向けて、戯曲チームとは1年ぐらい頑張ってやってきたんだけど、今年の夏に合宿をしたんですよ。皆バラバラなところに住んでるから、合宿をして一緒に作業をしたんですけど、それが終わったあとにきしーたんが補綴をしてくれて。そのテキストを読んだとき、「……重い」みたいになったんです。今思うと「きしーたんを誘って良かった」ってことなんですけど、そのときは「悲劇資料館に連れて行かれた!」みたいな感じで、大変な思いをしたんですよ。あまりにも悲しくて3日間泣きっぱなしで、カオナシみたいになって(笑)。ちょうどその時期にりのちゃん(大道寺梨乃)の結婚パーティーがあったんだけど、全然人としゃべれる状況じゃなかったんです。まあでも、静かにしてたら目立たないかと思って行ったんだけど、後で聞いたら死ぬほど目立ってたらしくて(笑)。そのときはもう復活しかけぐらいの時だったんだけど、そのパーティーには今回の座組の文美ちゃんとやしがいたから、そのときに合宿で出来たテキストを見せたら、中林がどんどん不機嫌になっていくんです。「こういうものを見るとディスりたくなる」とか言っていて、なるほど、炎上とはこういうものかと思ったんですよね。それが結構良くて。っていうのは、今回『非劇』で考えたかったことの一つが「炎上というものはなぜ起きるんだろう?」ってことだったから。

 

つづく☞