(続き)

篠田 そのあとにきしーたんとけーちゃんと渋谷のルノアールであったら、けーちゃんが「僕が昔書いてきた文章を持ってきました」とか言って、どんなのがくるんだろうと思って読んだら「またそれ?!」みたいな気持ちになったんです。せっかく悲劇資料館を通り抜けてここまできたのに、またそれかよって。批評や思想って、面白いとは思うんだけど、若干言葉がダサいときがあるじゃないですか。何だろう、言葉を建物みたいに使ってる感じがするんです。けーちゃんのそれを読んだとき――これは別に良し悪しの話じゃないんですけど――「また資料館作ってどうすんだよ」って気持ちになったんですよね。きしーたんには資料館みたいな役割も少しあるんだけど、けーちゃんから聞きたいのはもっと素直な言葉だったから。

岸井 稽古の中で、篠田さんが「何で誘ったか」を全員について書くみたいな時間があったんですよ。僕はつまり演劇史担当なんですけど、演劇というのは歴史が立ちにくいジャンルなんですよね。でも、じゃあ歴史性がないかというとあるわけです。なんだかんだ言って篠田さんも演劇の人をちゃんと知ってる人だから、僕と二人で話してると演劇史的なトークになっちゃうところはあるんですよね。彼女が齋藤惠太にテキストをお願いした理由は“外部性”だと思う。つまり、「演劇の文法や歴史を知らないやつに作らせないと、私は退屈だ」と。ただ、単に外部性だけだとうまく行かないだろうから、僕が補綴として入ることになったという経緯があるんです ところが、齋藤惠太から上がってきたテキストを読むと、一見外部を装ってはいるんだけど、ギミックで誤魔化されているだけで外部性がなかった。篠田さんは「放っておいたら演劇なんか観に行かない、しかし今の東京でシェアハウスを作品だと言っているような人間のリアリティが欲しいんだ」と言っているのに、彼はそれっぽいものを書いてきたんですよね。ただ、そこで「全部ギミックじゃん」と言っても意味がないから、彼が書いてきたテキストからギミックを取り除いて、よくあるドラマトゥルギーに合わせて彼の言葉を再編集して、誰が読んでもわかるように並べたわけです。そうすると、超つまらないけど意味はわかるテキストが出来上がった。いや、意味がわかるから、面白いは面白いんですけどね。それが良かったのは――彼が書いてきたテキストのフレーム全部をそうやって構造化してみたことで、脱構築のチャンスが現れるわけです。そこで「どこかに出口はないか」という探検が始まって、篠田さんがカオナシになったっていうのも「どこかにこの資料館の脱出口はないのか」っていう創作モードに入ってたってことなんだと思う。

篠田 その話のあとにタイにもどって、チェンマイにこもって2稿を書いてたら、わたしは実際に移動してるので、そのときにすっと空港ってモチーフが出てきたんです。それでその2稿をおくってどうなのかなーって反応見たら、けーちゃんからレスがきて、成田空港第3ターミナルに行ったときに、なんか飛行機のために自分が延々とあるいていて、そのモチベーションにスポーツとかの劇をつかっていて、なんだか情けない気持ちになった、と。その「情けない気持ちになった」っていうのが面白いと思ったんですよね。その「ちょっとしょんぼり」みたいなことが非劇の――「劇に非ず」の本質だと思うから。

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岸井 空港がモチーフっていうのは面白かったですね。空港も劇場も人が大勢集まってきて通過していく場所なんだけど、そこに集まることにちょっとだけ意味があるわけですよね。そこに空港ってモチーフが入ることで、このチームが求めている客席のイメージが見えたと思ったんです。つまり、このチームが求めている客席というのは空港なんじゃないか、と。しかも成田空港第3ターミナルというのは、LCC用にできた空港ですよね。今回、皆で取材にも行ったんですけど。

篠田 行きました。いや、ヤバいっすよ。ナリタニストって言葉、知ってます?

平倉 ナリタニスト?

篠田 成田空港第3ターミナルに行くと、「自由な旅をこよなく愛し、未知との出会いを求めて、成田空港からつぎつぎと旅立っていく本物の旅人たち。それが、ナリタニストだ。」とかってポスターが貼ってあるんです。それで、第3ターミナルまでの道が陸上のトラックみたいな色で舗装されていて、そこを人力でずっと歩いて行くんですけど、壁にはずっと「キミが今からするのは、旅行か、旅か。」みたいな標語のポスターが貼ってあって。

岸井 齋藤君たちのネットワークは日本中にあって、沖縄には支店のようなシェアハウスがあるから、彼はわりとよく空港を使うんですよね。安くすれば5千円ぐらいで沖縄に行けてしまうから、金額的にも時間的にも大阪や京都よりも近いわけです。齋藤君は1ヶ月ぐらい沖縄に行って帰ってくるような生活をしてるんだけど、成田空港第3ターミナルというのはその人たちを運ぶためにデザインされているという見方もできる。僕が思うに、だからこそ彼は情けない気持ちになるんだと思うんです。

成田空港第3ターミナルというのは、駅から1キロぐらい離れていて、ひたすら通路が続いていてるんだけど、その両側がよりによってプラスチックの波板で押さえてあって、そこの手持ちのカートを押して荷物を運んでいくんですよね。その手持ちのカートを戻すおじさんたちも常に忙しく歩いていて、そこにさっき話に出たような標語のポスターが貼ってある。その通路を歩いているときに、齋藤君は突きつけられるわけですよね。いかにその状況をかっこいいと強弁したところで、「お前は情けないんだ」と。その話が出てきたときに、齋藤惠太に作家として参加してもらった意義が出てきてるんじゃないかなっていうことは思いました。

篠田 だから――リアリティですよね。この作品ではどのぐらいの年齢のリアリティの提示するのかって話をしたときもあったんだけど、成田空港第3ターミナルって新しい空港でしょう。で、ほんとにデザインの力が結集されてるんだけど、それが全部「すごく安く飛ぶために人力で歩く」って作業を埋めるためのものとして機能してる。これがデザインされてないターミナルだったら「そういうもんっすよね」と思えるんだけど、そうやってありとあらゆる労働がフィクション化されてるみたいなことになってきたときに「ちょっとしょんぼりする」っていうのが、なんかわかると思ったんです。

平倉 そうだね。しかも全然フィクションで支えきれる距離じゃないから、自分の身体に戻ってきてしょんぼりするわけでしょう。

篠田 「でも、これが未来か」みたいな感じですよね。ちなみに、第二稿では時間軸を3つ作ることを試したんですよ。「うまく行ったらいいな」ぐらいの気持ちだったんだけど、最近うまく行ってる気がするので、3つどころじゃなくなってきてます。

平倉 「時間軸を3つ作る」というのは、同時に3つある?

岸井 パラレル・ワールドですね「ナノテクノロジーによって人間は死ななくな」ったときに人間や演劇はどうなっていくのかという思考実験があって、そこで考えられるバリエーションを一個ずつ潰してシーンにしていこうっていうのが構造のアイディアです。

篠田 今話を聞きながら、「いや、それはどうでもいいんだけど」と思って(笑)

岸井 いや、篠田がどうでもいいと思ってるのは知ってるんだよ!(笑)

篠田 でも、そういうのは面白くて。皆がそれぞれ違うことを面白いと思っていて、それが全部集まったらいいっていうシンプルな発想なんです。

岸井 齋藤惠太が「人間がサイボーグ化する」って話を書いてきたとき、僕もね、最初はどうでもいいと思ったんです。でも、よくよく考えてみると、彼は「人間が死ななくなる可能性がある」ということを身体的に予感しちゃってるんだっていうことにピンときてしまったんですね。僕は全然ピンときてないですよ? 僕はそのうち死ぬと思ってるけど、でも、彼は死ななくなる可能性がある世界を生きている。それは全然違うリアリティになっているんじゃないかと想像したんです。篠田さんも惠太君も許容量が広いから、なんだかんだアリだったんだけど、ここで二人の違いが明確になったと思うんですよね。篠田さんは「死ななくなることはない」と思っていて、惠太君は「いや、死ななくなるんじゃない?」と。ここが実は二人とも譲れないポイントになったので、そこでハードコア化するきっかけが起きたんです。そこはもう、バリエーションにしちゃったほうが面白いんじゃないか、と。

いずれにしても、今はまだ「人間が死ななくなる」ってことにはなってないわけだから、移行期間だと思うんです。つまり、彼らは移行期のこどもたちなんだと思ったんですね。移行期のこどもたちは複数の未来を思い描くだろうし、それは面白いんじゃないか、と。そうやって複数の未来を同時に想像しているからこういう世界観になっていて、でも結局は空港でしょんぼりしているんだということは面白いなと思ったから、それを並行的に描くことをやってみようと思ったんです。

平倉 それは、作品としてはどうするんですか? 一個一個のバリエーションを、それこそモチーフにする?

篠田 いや、どうするかは考えないで、とりあえず私は「良いと思う」って言ってみるんです。それで……ここからはうまく説明できないことが多いんだけど。今回は4人パフォーマーがいるんだけど、Aokid君は演劇作品に出るってことが初めてなんです。「これはいいぞ」と。「どうやって人は覚えるのかってことが観れるぞ」と思ったんです。それを観察すると、バグとスキップとループがあるのがわかって。

岸井 また新しい言葉が出てきた(笑)

篠田 たとえば辻村とかは、覚えにくい台詞でもバッと覚えるんだけど、どうしてもバグとスキップは起こるんですよね。台詞を間違えたり、台詞が飛んじゃったりして。Aokid君の場合にもバグとスキップは起こるんだけど、バグとスキップをやってるうちにループし始めちゃうんですよね。「その三つのバリエーションを質感として入れて欲しい」ってことをテキストチーム(齋藤・岸井)にリクエストしたりしているうちに、時間軸が9個とかになってきてるんですけど。

平倉 じゃあ、そのいくつかの世界で重なってる事柄も一杯あるわけですね?

岸井 そうです、そうです。ただ、並行世界であるってことを設定で構築するってこともやってみたんですけど、そういうことでもないなと思ってやめたんです。そうじゃなくて、明らかに座組の違う人たちがいるところに、「言語の覚え方が違う」とか「間違え方が違う」みたいなことを持ち込んでいく。その並行が出やすい構造を設定してあげるだけにしておいたほうが面白いなと思ったので、そこを言語で表現するのはなるべく抑えよう、と。で僕の意識が向くのはモブの存在なんです。ようするに、並行世界における差は何だろうかと考えると、誰が主人公になるかが違うっていうことですよね。こっちの世界ではモブだった人を主人公にした並行世界を作っておけば、あとは稽古場で違う世界が描かれていくのではないかという判断をしたんです。

 

――ここまで聞いてきて、ハードコアな方向であるってことは理解できたし、やりたい方向も理解できたんだけど、これがどうエンタメになるのかってことを最後に聞いておきたいです。

篠田 これはチラシにも書いたけど、集団制作ってやり方でエンタメを作るっていうのが革命的だと思うよ。それがうまく行くとエンタメになる。

岸井 ステレオタイプなイメージだと、「作家とは自分のハードコアを自分で出す人だ」みたいなところがあると思うんですけど、劇作家はどこまでも引いておかなきゃいけないと思うんですね。それぞれの登場人物はハードコアじゃなきゃいけないし、それぞれの俳優は役とハードコアに向き合うしかないんだけど、お客さんは客観的に観て楽しむわけですよね。その構造を創るのが仕事だから。

「ハードコアがエンタメにひっくり返る」っていうのはハードコアなものは立場が動かなそうに見えるんだけど、こっちが主で向こうが客だと思っていたのに、「向こうから見るとこうかもしれない」っていうふうにひっくり返る可能性がある。そういう体験をするのは非常に楽しいことだと思うんですよね。平倉さんに見てもらったリハーサルの映像では、あんまりハードコアじゃないエピソードを使ってひっくり返してたけど、戦争の原因になりそうなくらいハードコアなものがひっくり返ったほうが楽しいと感じている――篠田が「エンタメ」って言葉を使うのは、そういう意味だと思ってます。演劇の力でそこまでひっくり返すことができるんであれば、決定的な他者同士が、他者のまま意味のわかんないコミュニケーションを取っているってことだから、それは平和と繋がってるってことだと思う。

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平倉 今日僕が聞いてきた話は、「このようなプロセスがあった」というメタレベルのエピソードですよね。今回は集団制作ということですけど、この場にいるのは二人だから、穴の空いたメタプロセスを僕は今経験している。それがすごく複雑というか、面白い経験をしてる気がします。

篠田 今回、テキストとしてのリアリティは、けーちゃんが「成田空港第3ターミナルで情けない気持ちになった」っていうことなんですけど、私が演出のリアリティで持っていきたいのは、スカイスキャナーとか価格ドットコムとか、いわゆる“メタサーチ”のリアリティなんです。そのリアリティについてここで話してもいいんですけど、それが話されることよりも、それを使って1時間半をしっかり埋めることが成功すればいいんじゃないかっていうことのプレゼンだったんです、平倉さんに見てもらったリハーサルの映像は。っていうことで、まとまりましたかね?

平倉 岸井さんは岸井さんでまとまって、篠田さんは篠田さんにおいてまとまって、重ならないものを見てる感じがする(笑)

篠田 スカイスキャナーを使ってね。2つだけだと、メタサーチの意味がないんですけど。

平倉 今日はまず、外国語を習得するみたいな気持ちで始めたけど、「外国語を習得するのは結構難しいな」と思って、その埋まらなさを感じました。「ああ、この言葉をこういうふうに使ってるんだ」と見えてきたけど、わかったっていう感覚を立ち上げないでおくほうがいいなとも思ったんですよね。

篠田 そうそう。3日間だけリアル・インターフェースがこの世に現れますからね。でも、「再演もあるんじゃないの?」と思われるかもしれないけど、この作品の賞味期限は長くないと思うんです。ただ、消費期限は長いと思ってるから頑張ろう。

岸井 最後の最後に、また用語を増やして終わるのか(笑)

 

編集・構成:橋本倫史

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